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07

終焉の頃 幕

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港は多くの人々でごった返していた。

残る人、旅立つ人。
もう二度とそこを交える事は叶わぬと互いに知って、許された後僅かばかりの時間で別れを告げる。

本当に残すところはもう数時間もなく。
特に混雑を極める待合所に入ると足を止める事すらままならない。
見逃さぬように視線を巡らせればやがて、それが一人の女性を視界に収めて留まりそちらへ歩いていく。

「悪ぃ、待たせた」
「あら、間に合ったのね」

声に気付いて手元に持った本から視線が上がる。

「いやそりゃ間に合わせるって」
「そう? 間に合わなかったら置いていくところだったんだけど」

さらっと言って小さく笑えば、長い金髪が揺れて。

「酷ぇなァ。間に合わねぇ事なんかねぇよ。…約束だからな」
「そ」

そっけなく聞こえる返答は、しかしてそう見えるだけで篭もる意までそうではないのは良く知っている。

「他に行く人は?」
「さぁ…少なくともあたしの知る人は、皆先に乗っていったみたいね」
「そっか。じゃ、此処に居てもなんだし向うとするか」
「そうね」

外に出れば、まだ暑さは薄れる事なく。
8月の終わりと言えど、肌で感じるほどには次の季節はまだまだ遠い。


目当ての場所に辿り着けば、桟橋から船に乗り込む。

甲板まで来てようやく、振り返るように港とその先に見える陸地を眺める。

「これで見納め、か」
「…そうね。こうして見るとやっぱり感慨深く思ったりするのかしら」

そう、とも違う、とも返さず。
無言で二人並び、ただただ見続ける。



「後悔はねぇ。ずっと…ずっと、前に進んでこれた。それにこれからは、未来にも進んでいける」
「未来?」
「ああ。だって、一緒に行けるだろ?」
「…。…ええ、そうね」

僅かばかり眉根を寄せるのは最後の宴の時が浮かんだからか。
だが、口元は本当に微かに綻んでいるようにも見えて。

「少なくとも、今はこの地に来た事を失敗だとは思っていないわ」
「…そいつぁ重畳」

こちらを向く彼女の顔は、本当に綺麗な笑顔を浮かべていた。



やがて、出発を告げる音が鳴る。


「いよいよか」
「そうね」

駆動音が鳴り始め、それまで響いていた風と声の音が遠ざかっていく。

やがて接岸していた港を少しずつ離れ始め。
戻る事を許されない別れとなるまで、もう後僅か。





「――なぁ、パーシャ」
「なぁに?」

風に遊ばせていた髪を片手で抑え、こちらを見上げてくる。
その瞳をまっすぐ見つめながら

「幸せになろうな」

そう告げれば彼女は少しだけ目を見開き。
刹那の間を置いて、小さく乾いた音が甲板に響いた。

「痛い!」
「こんな人が居るところでやめてちょうだい」

今度こそ眉根を寄せた彼女のデコピンを受け、悶絶する。
百戦錬磨であったとしても、これだけはこれまでもこの先もきっと避けられまい。



世界は変わっても。
例えこの先交わる事は無くなったとしても。

変わらず、その日々を生きていくだろう。

振り返ったとしても、立ち止まったとしても。
やがてまた、前へと進むのだから。





全てを過ごした、その時を忘れずに。



―Fin―
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