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26

狼虎邂逅

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それは毎年行われる、エージュでの星屑の宴の時。
華やかな祭とは一線を画し、2011年の冬。それは行われていた――。





永寿の一日が終わる。

真冬の空気は澄んでいる。
赤く、赤く、燃えしきる太陽と大空を遮るものは何も無かった。

御手は全てに分け隔てなく届く。

広い空き地の四方には、それぞれ焚き火が用意されていた。
未だ日がさす時間帯において、それらが用意されていた理由はただヒトツ。

向かい合う二つの影。

片方は鍛え上げられ、引き締まった肉体を簡素な服の下に隠していた。
誰よりも速く、誰よりも軽く、そして誰よりも拳の重みを知っている男

片方は長身痩躯と頼りないが、傍らには巨躯の虎、身の丈を越す長斧。
何よりも深淵をたたえた瞳には、強い魔性をにおわせる。

一年をかけて。
ここに彼らの仕合が、実現した。



【ルール】
HP上限30

発言秒数末尾の数字0~9までを使用
出た数字をHPより引いてゆき、先に相手を0にした方を勝者とする

ただし発言秒数末尾が0だった場合はノーダメージとする

先攻・後攻は一番最初の名乗りレスの際、発言秒数末尾が大きい方が先攻とする
最終的に同ターン内で2人ともHP0になった場合のみ、ダブルノックアウトになる




※2011年末、エージュにて夏山千歳と。
※記録に登場する第三者の記載内容は掲載許可を頂戴済

-Side by セイリオス

約束をした。
それは、一年前の宴での話。

武を競う館での。
小さな、可愛い乱入者により生じた縺れの先で。


「…全力でやる、そういう約束だったな」

視線の先。
その見た目に似合わぬ程の長斧と、巨躯の虎を従えた相手に声を向ける。
普段の穏やかな、和やかな彼の雰囲気からは中々想像のつかぬ、戦の姿。

「嬉しかったぜ、一年も前にあってそれを約束と覚えていてくれた事は」


彼は一人で戦う身ではない。
目前の虎獣然り、個々に命を持つ契りを結んだ仲間が居る。

「遠慮は無しだ、最初から全員喚んでおかなくて大丈夫か?」

それは、シンプルな挑発だった。
此方はただ1人の身。数が揃えば状況は多勢に無勢など最早承知の上。

だが否、と男の顔には笑みが浮かぶ。


「出し惜しみだけはしてくれるなよ。それが全力でねぇと分かった瞬間に、幾ら数で来ようが―――」


ごぅ、と風が嘶く。
抑えきれぬ闘志が溢れんばかりに大気に流れる。

「――その喉笛、一息に喰らい切るぜ」

ニィ、と浮かぶ笑みは獰猛に猛る程に。

「…さて、改めて名乗ろうか」

だが、爆発寸前でそれは穏やかさを取り戻す。


「狼家が一人、軍狼王がイージスの盾。預かるは風の頂にして今尚高みを目指すモノ。」

強き瞳に力を添えて。今一度真っ直ぐに。

「我が名は天狼、セイリオスッ!…いざ、尋常に勝負願おう。」


-Side by 夏山千歳

「千歳も、嬉しかった」

南東和風の白い衣に、色気も素っ気も無い黒の羽織。
左頬の傷跡を隠すように極彩色の羽飾りが結ばれ、覗く二の腕はむき出しのまま。
指先の翡翠色だけが、周囲には見慣れた彼と共通する唯一だった。

「忘れずに居てくださった事が。
互い同じ意志であった事が、嬉しかった」
寒々とした格好でありながら、しかし顔色は変わらない。
長斧を地面に突き刺し、虎に騎乗した。

「遠慮は無しだ、最初から全員喚んでおかなくて大丈夫か?」
「カードは役を作り初めて戦場に出るもの、とはいえ」

手綱を二、三度引き、長斧を引き抜く。
体表から蔓草が生え出て、柄に絡まった。
 
その意匠は衣服と同じく素っ気無い。
龍骨を削りだし鉄の刃をつけただけの、見た目よりは軽く、

同時に脆い代物だった。
「カード無くば役も揃わぬのも、また道理ね」

その全ては何時でも覚悟の表れだったのだろう。
高鳴る鬨の声。
向かい合って聴く事が実現するとは思わなかった、夢想するだけだった。


微笑み、瞼を瞑る。
目を開く。


「天狼セイリオス・G・カッシュ。
あなたに会うため、私は此処に来た」
彼はもう旅人では無かった。

「よもや血族全てが死に絶えようと、この全身全霊は永久に夏山を率いる」
治療師でもなく、宴に参席するものでもなく、ましてや穏やかな青年でも、無かった。

「私の名は黄昏の一族の末裔、夏山家当主、白妙之千歳」

風に溶けそうな穏やかな声が、凛とした張りを含ませる。
周囲には実体を持たぬ羽虫。
彼の脚となる虎、彼の暗器たる仔竜、血に潜む最秘奥の霊獣。

「この身に宿る血と歴史の全てをかけて」
そして、彼の姿を写した愛し子。

左手を向ける。
蔓草が展開する。

「参ります!!」

イニシアチブ判定

先攻:セイリオス
後攻:夏山千歳


-Side by セイリオス TURN1

「…その名、覚悟。しかと聞き届けた。」

手札を揃えたと思しき彼の声を聞き存在を確かめ。
何時もと違う、堅さを持つ声でそう返す。

紅の魔狼。
紫雷の戦姫。
閃剣疾風の剣者。
重槍の紅舞嬢。
剛拳の獣王。
天蒼の龍。

この地で生きて、多くの戦場を駆け二人と居ない猛者と闘い抜いてきた。
まだ見ぬ強者との邂逅こそ、放浪を重ねる今、自らの願いであり生きる道。

だがその中でも、術者に類する相手と直接1対1で対峙した経験は少ない。
1対1という状況にならない事が通常と思えば、決して珍しい話ではないが。

目の前の相手は、その上でただの術者で済むわけでもないのは明白。
 
懐から1枚のコインを出せば「合図だ」と告げて宙へと弾いた。
それが地面に触れるその瞬間に、体は弾かれるように前へ駆ける。

「―先手は貰うぜ」

攻め方など、悩んだところで埒は明かない。
ただ、自らの生きてきた道で見極めるのみ。

風が右の拳へ集約し、それを地へと叩き付ける。

―風神拳・爆旋一揆 弐式

地から伸びるように生じた風の壁が、自分を中心として扇状に広がるように前進する。
その高さは4m程。勢いは決して早くないが、並に駆ける程では追いつけないそれが彼らへと疾った。

これでダメージを与えられるとは思っていない。
あくまで初撃、多数相手に放つ先手見極めの技。

破るか、越えるか、避けるか。
何れにせよ出る場が分かれば多数でも対処は見える。

「―シッ」

左拳に風を宿し、右手は刀の柄を何時でも握れるように。
低く身は屈め、壁を追うように速度を緩める事なく相手へと駆けた。


-Side by 夏山千歳 TURN1

この大陸に降り立って、この人とは戦場を共にしたことが二回ある。
一度目は、紅の砂漠と京がぶつかり合った実弾演習。
津波のような人の群れの中、城門から蒼竜と空高く舞い踊る姿を見た。
二度目は、倭の都で開かれた武杯。
一対一の仕合において組み合わせは成らずも、風と雷が交差する音を聞いた。

騎乗獣たる虎、補佐を約する蔓草、音も光景も知覚する羽虫。
それだけを場に残し、他は全て消え去る。

夏山一族は、その血肉に蠱惑的とも言える魔力を有し、それゆえ魔性のものから狙われてきた歴史がある。
先祖はそれを逆手に取り、自らの血肉と引き換えに魔性を従える術を得た。

生き残る為の契約は、いつしか家自体の繁栄のための道具になり、非道とも呼べる手法で血を濃くしていった。
その栄光は当主が生まれる頃には既に没落していたが、濃すぎる夏山の血と、業だけが残されていた。

コインが弾かれる。
地面に落ちると同時に、天狼の拳も地面に叩きつけられた。

「左業の兵よ!」
虎が地面を強く引っ掻くも、動く事を許さぬまま。
左腕の蔓草を前方に向けて幅広く展開し、壁を作る。
その強度はあえて下げられ、引き裂かれた瞬間から次の蔓草が補うように生える。
質量による戦いは当主の十八番だ。
唸り声にも似た風を真正面からいなすが、次に来る天狼は、そうともゆかない。
ゆく筈がない。

当主は五体の精霊、霊獣と契約をしている。
血液に甚大な治癒の霊獣。
右腕に知覚の羽虫、左腕に守護の蔓草。
右耳に同化と内蔵の仔竜、両脚に進軍と突撃の騎獣。
各々に役目を持たせ、その全てを統括しなければ戦うことも出来ない、弱いただの人間であると。
これまではそれで良かった。
しかし、それでは足りないのだと欲が出た。

風が弱まるタイミングを狙い、蔓草の役目を変える。
身を守るためのものから、武器を取り出すプロセスへ。

「ッ、たああああああぁぁぁぁ!!!」

響き渡る、幼く高い場違いな声。
蔓草の間から『現れた』のは、身の丈70センチ程の少女。
彼女は生命を持たぬ機械人形のメイド、名はムーン。

人形は全身から放電をしていた。
主人に伴い戦場へ赴き、時にその盾となる機械人形にはヒトツの機能が搭載されている。
オーバードライブ、命を持たぬモノの純粋なる魂の叫び。
安全なラインを越えて、内蔵されたマナを燃やし尽くす事で、常以上の身軽な動きを可能にする諸刃の剣だった。


その拳の重みを、教えてください。
人形は確かに天狼に、そう告げた。


現れた勢いそのままに跳躍する先は、此方へ疾走する天狼。
ぶつかり合う狼と猫。
手にしたモップを、愚直なまでの全力で振り落とした。


-a result of TURN1

セイリオス
HP:30-7=23

夏山千歳
HP:30-0=30


-Side by セイリオス TURN2

心の奥底で小さく、嬉しい舌打をする。

爆旋一揆の風の壁は、本来は包囲網の突破を図る技。
四方八方からの多数で生じる挟撃を封じ、破り得る少数を叩いて突き抜けるのが定石の使い方だ。

その為に、同じ質量によるスタミナ勝負では少々分が悪い。
やがて蔓草により壁の厚みは薄らいでいく。

だがそこで退くわけにはいかない。
それだけの大質量、一度に引き込める事叶わないと踏み、逆に抜ければ懐へ入る機会が生じるからだ。
 
だが。

『ッ、たああああああぁぁぁぁ!!!』
「!?」

響いた声と共に蔓草を縫い現れた少女の登場が、その読みと試みを見事に破る。

互いに駆ければ、最早目前。

いなせば被害は最小限に抑えられるが、待つのは挟撃。
その危険性は勿論だったが、何より。

「…その気迫、重み。受けて立たなきゃ戦士の恥か。」

腰あたりに抜刀せんと構えていた手が抜くには半端に間に合わぬと手刀を創る。


――鏡神映身流・拳闘術 手鋼刀


“気”を集中・凝固させ刃の強度を手に保ち、その全力の一振りを迎え撃った。

「ぐ…づぁ!」

切り結ぶ衝撃と共に発されている放電が体を伝う。


「いい一撃だ…が、雷にゃぁ慣れてんだ、よ―!」


踏み込む右足と共に、切り結んだ右手を引きながら右肘を上げ引き寄せた少女の身を軽くトンと肘で浮かし。

「捻るは流れ。描くは螺旋。全てを飲み込み刻め竜巻――!」

自らは同時に捻る体は反時計に一回転。左手が途中で蔓草に向けば、詠唱が完成し宿っていた風が横殴りの竜巻となって、一息に蔓草の壁を捻じ切り穴を穿たんと放たれる。


―風魔症・咆龍旋

だがそれも足止めの一手。
一回転しきった体は、再度右足を軽く減り込む程に地へ踏み込んで。


「―鏡神映身流、」

右手が象る掌が、少女の鳩尾辺りへ捻るように潜り込む。
外部衝撃の破壊と寸系の内部破壊を行いながら天高く宙空へ放り上げる身体破壊。


―拳闘術・右王崩旋駆


入れば少女の体は捻り抉る衝撃により回転するように天高く上がるだろう。
同時に追撃せんと地を蹴る自身が、狙うはその身に逆回転の抉りを放つ締めの奥義“逆鱗掌”

素直に入るか否か、少女の反撃か青年の制止が入るか。さて。


-Side by 夏山千歳 TURN2

蔓草は、実在の蔓草ではない。
此世へ干渉するための手法であり、青年の身体から寸断されれば塵となり消え去る存在だった。
だが此世に干渉するという事は、此世の理をもつのと同意になる。
質量を増せば増すほど、青年の動きが拘束されるのは自明だった。

この勝負、懐に入られれば。
それが高い確立で、こちらの敗する瞬間になる。
身軽さを武器とする武芸の達人に対抗する手段は、持ち合わせていないに等しい。

だから布石を打った。

勢いを強めれば強めるだけ、カウンター効果となる。
それは天狼には勿論、人形にも適応される。
モップと手刀が打ち合う、轟音の中にビキビキと鈍い音、そして耳をつんざく高い音。

ガラス瓶が割れる。
上空から滴り落ちる赤い水、むせ返る金木犀の薫りの。

人形は小児程度の大きさの身体しか持たず、それゆえ何もかもが軽い。
反動で舞い上がり、上空から再び攻撃に転じるつもりだったが、そのアテは外れた。
折れたモップと人形の腹に突き刺さった拳。
あまりに容易く、そして予定とは全く異なる意図で、天へと投げ出された。

この身は奇襲のための武器だ。
しかしそれ以上に、愛玩人形であり、従者であり、何よりも。

「せん、せ」

その小さな身体は場外へと落下した。
人形のマナが消費され尽くす。
軽すぎた体重ゆえか、幸いな事に致命的な内部破壊は免れた。

そして人形の離脱さえも、策の内。

天狼と当主を阻む蔦の壁は、もはや存在しない。
が、そこにあるのは風穴をあけた大壁ではない。
塵となり消えつつある、残骸だけ。
その先に当主は居ない。

当主を乗せて虎が駆ける、横へ。
当主とは真反対に一本の蔓草が豪速で伸びる。
それは長く太い注連縄を絡ませ、当主と天狼を内側に囲む形で。
あと10秒とかからず、その円は完成する。
そして当主と虎には、細い注連縄が纏われていた。
それが意味するものは。

「さぁ、夏山千歳の世界をお見せ致しましょう」

当主は人形を省みなかった。
何故なら彼女は武器であり、役目を持っていたからだ。

開始と同時に踏み込むであろう、天狼から時間を稼ぐという役目は、その身を捨て去る事で成し遂げた。
そしてもうヒトツの役目、もうヒトツの布石。
人形に持たせた小瓶に仕込んだ、自らの血液。
それが天狼に降りかかれば、この罠は完成する。

円が出来る。
神に捧げられた稲から出来た藁を、神僧の手で編まれ、湖の水で清められた注連縄。
それは外界と内界を切り分ける、結界になる。

一本目、太く長く戦場を囲む境界は『此世』と『彼世』。
二本目、細く短い当主を囲む境界は『彼世』と『此世』。

『彼世』には、夏山の血肉に恨みを持つものが集う彼岸のモノが集い来る。
だから二重の結界を構成することにより『彼世』から自分を切り分けた、そして天狼を『彼世』におさめる必要があった。
しかし元より強固過ぎる結界の扱いは不得手、どちらの結界も持って30秒。

結界が発動する。
幾万の鈴の音が鳴る、幾多の異界のモノが現れる、夏山の血肉を食いちぎらんと、咆哮する。


天狼に血液がかかっていれば、その役は滞りなく完成する。


-a result of TURN 2

セイリオス
HP:23-9=14

夏山千歳
HP:30-8=22


-Side by アカリ・ウェスペル

名乗りの頃から物見遊山、
宴準備の隙を見て一服中の白衣1人。

無論、周囲にはひっそりと結界を張ってある。
何しろ一方は風遣い氏、
ギャラリーにまで影響が及ぶほどの力を優にお持ちの御仁だ。
万全を期さなくてはな。

初っ端から風緑の攻防が鮮やかだなあと思っていたら、
ウチの助手が突貫→吹っ飛び→落ちてきた(爆

慌てて結界を解き、ムーンを取り込んでまた閉じる。
とはいえ、

「あーあー; 俺はキカイは解らんからなあ…」

損壊が酷いが、何やらまだ作動中の箇所はある模様。
とりあえず脇にそっと寝かせつつ、視線を前方に戻す。

それにしても今回は皆、遠巻きかね。
間近で迫力を味わうも良し、だぞ。


-Side by セイリオス TURN3

――金木犀の香りがした。
同時に雫が服に、体にかかった事には気付かぬまま。


少女の退場を見届けて。
そこで既に完成されつつある図へ警戒を移す。

術式の類は千差万別。
知識と経験で予測は出来ても確立の問題なれば、特殊なモノほど無意味に終わる。

果たして、完成されたそれが結界の類と気付いたのは、囲まれた境界を境として幾万の鈴の音と共に現れた、異界のモノに襲いかかられると同時。

迷いは瞬間、体は弾かれるように腰に挿された刀の柄へと手を伸ばす。



――鏡神映身流・抜刀術 参式『大嵐』

居合いの速度と共に抜き放たれる横一閃が円状に広がり、迫る「それら」を裂いていく。

だが、拙い。
終わりを知らず、現れる異界の量は数知れず。
刀の軌跡が幾度描かれ、風の宿る拳が無数の穴を穿つとも絶対的物量の差はやがて開く。

「くっ…!」


傍目から映る、白い姿はやがて黒に覆いつくされて。
それが隙間なくドーム状に囲われれば訪れる静寂。

これが僅か10秒ほどの出来事と思えば、どれ程の多勢に無勢だったかは想像も難くない。



――瞬間。
何かが割れる音が、小さく、だが確かに静寂の中に響いた。

『其は古の縁に導かれし力』


低くもなく高くもない音が空気を震わせる。


『祖が金色は吉凶の印が証』


吹かぬ、しかして風の音が大気を叩く。


『吉となりては雄々しき英傑を刻み』


完成された異界の山を見ているだけであった残りが、更に大きくせんとばかりに積み重なっていく。
 
『凶となりては荒々しき傷跡を残さん』


声は止まない。


『其が金色が示すは何れになるや』


一言毎に強くなる声に異界の群れの咆哮はかき消さんと叫ぶ。
だが悲しいかな。小さく続いていた何かが割れる音は確かに。


『今以ってその血に流れる記憶に契りを結ばん』


築かれた山を崩すそれであった事実を示す。


――開眼 金色童子――



それは噴火の如く。
山であったそれは、中から弾け飛ぶように吹き飛ばされ掻き消えた。
 
「…とんでもねぇ術だな」


中から現われたるは化身。
背に一対、金色の翼を生やし。
短かった髪は肩を撫でる程に伸び。
開かれた両目は蒼の濃淡ではなく、強き金色の光を宿していた。


一歩ずつ、術者である彼へと歩んでいく。

異界のモノは消える事なく、四方から囲うように襲いかかるが。
正面以外のモノは見えない何かにぶつかれば阻まれ。正面からのは一振りに切って捨てられた。


―風王症・風魔領域

風を用いた結界術。
囲い、阻む壁に等しいだけの術だが、囲うその範囲が狭い程に強固さを増す。

正面に生じなかったのは敢えての事。


案の定だが、異界のモノは大群として正面に彼と自分の間に生じ集えば襲いくる。



――25秒

「…解放、天龍紋」

右腕が輝くと共に、小さく白い龍がその腕を纏い伝わりながら手にした刀の刃へと吸い込まれ。白く光り輝く聖なる神属性を宿した刃と成す。


手刀などやってのける癖に、刀を持ち振るう理由が此処にある。


「我が名を以って解き、刀が真名を以って、この一太刀を放つ」


目前に迫る大群へ、上段に構えられた刀はただ真っ直ぐに振り下ろされる。


『天』喰らう
    

               『龍』なる神の


                                    『爪』


-Side by 鬼燈

聞き覚えのある声が聞こえた気がして足を止めれば
ここには然程似つかわしくない感覚
けれど、それは直ぐに影を潜めて

興味を抱き其方へ向かう

目に映ったのは――ぶつかり合う2匹の獣


奔流する力に撫ぜられる心地良さに心が躍る、が
場外へと飛んできた人形の姿に我へと返る

彼等に此方を攻撃する意思等在ろう筈も無い
其れでもこんな間近に突っ立っていられる程
生温い闘いでも無いだろう

少し距離を置こうとし見付けたのは、
結界らしきものの中から人形の子を引き寄せる
闇医者さんの姿

名前は確か…

「突然ごめんなさい、
もし良ければ入れて貰えない…?」

軽く結界の壁をノックし、そう問い掛けた


-Side by 夏山千歳 TURN3

此世と彼世の表と裏がひっくり返る。

悲しき天の崩壊があった。
四年前にも遡る、泥水を啜ったヒトツの戦役。
結実したばかりの自分は当時、拠り所だった潮風の国を護る為に奮戦した。

集団先頭に初めて参加した。
大陸一の錬度を誇る騎士団と、大陸唯の文化を持つ倭の都。
大きくなりつつある実は一人の少女と相対した。

その舞台の片割れ、虹の都で開かれた武闘杯。
知りうる限りの誰よりも興と華に生きた粋人と刃を交わした。
色づき始めた自分と高値の花との逢瀬は、未だ心躍る。

幾多の戦いを経て。
豊熟した自分が最後に向き合ったのは、縁を結んだ偽りの聖職者。
誰も知らぬコロッセウムで、蔓草と剣の火花が散った。

そうして。
死霊を切り裂き続ける天狼を、こうして視界におさめる今の自分は、腐り落ちる直前の果実。
技術はまだまだ発展途上。
肉体は絶頂期とも言える若さだが、こちらもまだ伸びしろがある。
だがその精神が、夏山千歳をそうたらしめる精神は、最早、此処こそが滴る蜜だと悟っていた。

瞬間、何かが割れる音。

目前には黒いドームと化した天狼、それを二重結界の内側から見つめるだけの自分。
虎から降りて、当主を守るように侍らせる。
静かに当主の首筋から束となった蔓草が生えた。
その先端が花開くように広がれば、そこから仔竜が顔を覗かせる。

仔竜は腹に収めたものを時に同化させ、時に内蔵する能力を持つ。

先の機械人形や何十メートルにも及ぶ注連縄も、仔竜の体内に仕込んでいたものを蔓草を介して取り出した。
子竜の小さな口が喉まで裂ける、中にはハート形の青い小瓶。
その内側で、ちゃぽんと水が揺れる。

契約とは魂と魂を混ぜあう行為。
従える彼らにしてみれば、自分は一時期、魂を介するだけの存在だ。
しかし当主からしてみれば、その身は、魂は、既に五つの存在に侵食されていて。
そこに千歳という自我は残っているのだろうか、という疑問が、常に付きまとった。

だが、恐らく、それでも私は夏山千歳でしかありえない。
呪われた肉体を持ち、脆弱な精神を介し、落実する直前の魂を持った、千歳でしかない。
 
ならば、だから、今を永遠にしよう。


黒いドームを打ち破り、表れたのは金の瞳。
あぁ、あなたにも、会えたね。
当主の口元に笑みが浮かぶが、それも一瞬の事。
躊躇する事無く、小瓶を手にし、その内の液体を飲み干した。

25秒。
清浄の力を宿した刀が振り下ろされる。
26秒。
千切れ吹き飛ぶ異界のモノと共に、当主を守っていた注連縄が断ち切られる。
28秒。
直後、自らに向けられた霊障に凍りついた当主を、何かが弾き飛ばした。
29秒。
外側の結界が消滅し、全ての異界のモノが消え去る。

戦場を覆う砂埃が風に流される。
塗り替えるように金木犀が薫る。
 
全身が引き裂かれ、血を流し地面に伏した・・・巨躯の虎。
その、ほんの数メートル横には。

地面から突き出る、無数の蔓草で編まれた、よもや巨木とさえ呼べる尖塔。
・・・否。

「素敵、素敵ね、セイリオス殿」

それはまるで長い長い首を持った、緑の龍。
当主はこれまでも大質量を得手としていたが、それを遥かに上回る。
その尖塔は屹立しきることなく、途中からアーチを描くように垂れ下がっていた。
そこに当主は立っている。

崩壊に巻き込まれる直前、虎に身を挺して庇われたとは言え、全ての衝撃から逃れられたわけではない。
致命傷は無くとも、衣服はそこかしこに切り裂かれ、血が滲み、腕を伝って滴ってさえもいた。

その指先からは翡翠色がヒトツ、消えている。
弾け飛んだ衝撃の際に、剥がれた爪を核として、生み出した蔦の尖塔。
これまでの当主にそのような力は無かった。
当主は、この戦場でヒトツの契約を果たした。
青年はおおよそ全てを愛した。
青年はおおよそ全てを欲した。
だからそれを選んだ。

当主はマナの根源に魂を差し出し、自らの輪廻転生を放棄した。
それでも尚、自らが夏山千歳であると信じた。

「どうぞ此処まで駆け上がっていらして、そして私の首を討ち取りなさい!」
笑う、人であり人ではなくなった怪物が、長斧を構える。
いつの間にか太陽は沈みきり、ぽっかりと浮かんだ月を背にしていた。


-a result of TURN 3

セイリオス
HP:14-8=6

夏山千歳
HP:22-9=13


-Side by ムーン

ぽいーんと呼ぶには、あまりにも鋭すぎる風を受けて。
意識を失い場外へ飛ばされた人形。
意識を取り戻したのは、マナを吸収する脊髄が奇跡的に破壊されず、マナの補充がなされたからか。
それとも、かぎなれた消毒薬の匂いがしたからか。

「・・・・、せ?」
視覚器官が作動するも、傍らの黒衣に違和感を覚える。
マナを消費し尽したのが良かったのか、放電はすっかり収まっていた。
起きたのかい、と手を差し伸べられた気がしたが、触覚器官は誤作動を起こしている、らしい。
ノイズの酷さに不愉快を覚えながら、傍らに笑いかけた。

「せん、せ、ムー・・・ン、ね。
いたいって・・・ね、わか・・ないの、ぉ」

腹を中心に損傷したせいか、発声器官にも影響が大きい。
しかし聞き取りにくい声に、痛々しさも、か弱さも無かった。

「でも、セ・・・リオスさ、まのこぶし、ずんって・・・おなかに、きて、ぴりぴ、り、して」
人形に痛覚らしい痛覚は搭載されていない。
猫らしい仕種をすることがあっても、あくまでプログラミングされたゆえの行動でしかない。
だから。

「いたい、て、いきてるって、こーなの・・・かなって、おもった」
命あることへの。
生きることへの。
隠し切れない憧憬を、その瞳に乗せる。
 
「せ、・・せ、こぶしのおも、み、ムーン、しったよ」
ぱたりと尾を動かして、まことに嬉しそうに笑った。
ノイズの合間のノック音に反応を返しながらも、眠るように目を閉じる。

破壊され、へこんだ腹部は見た目にも痛ましい。
しかし、その笑顔には、明日を生きる強い力が宿っていた。


-Side by セイリオス TURN4

最早その白い上着はボロボロだった。
汚れ、破れ、穴だらけになり。節々から生じた怪我と血が、それを更に上塗って。

だが、見上げたその瞳が映すものに、そんな些細な事情は働きかけを行えなかった。

「――――、」

つばを飲む喉の音が、響く。

「お、」

立ちぼうけの身が足を踏み締め。

「ぉぉぉぉぉおおお…」

腹に力を入れんと拳は固く握られる。

「ォォォオオオオオオオオオオオッ!!!」

雄叫びに近く、呼応する風と闘気が広く広く辺り一帯に広がり激しく空気を叩く。




「――ふぅ」

凪いで、一呼吸。改めて、遥か頭上の彼を見やる。

「ただのデカブツ、じゃぁねぇな。見るだけでビビりそうになるなんざ、何時振りだ?」

先の声はその我が身を締める為でもあった。
彼の声が響けば、ボロボロとなった上着を今度こそ脱ぎ捨て。

金色の翼を広げて舞い上がる。
蔓草の龍より離れて少し。同じ高さに浮き上がり。

「…俺は、首を討ち取る為に戦うんじゃぁねぇ。
 殺して得る武勲なんざ、俺にゃぁ褒章でも何でもねぇよ。
 命張っても、殺し合いがしたいんじゃぁねぇ。
 
 俺はただ―――」

ビッ、と手に握る刀身の先を彼に向けて。

「テメェ自身の魂掛けて。俺より強ぇ奴に、会いに来ただけだ」

正しく不敵。
その笑みを口元に浮かべた。

「だから」


風が渦巻く。大気がうねる。
それまでと違う、大局の嵐が集いを見せる。

「俺はテメェに、全力で『勝つ』」


右腕が再び光る。

「再解放、天龍紋」

白き聖なる龍が刀身へ宿る。
同時に、

「我こそは盟約者、我が名こそは斬風王!」

彼へと向けて。宙空に大きな魔法陣が展開される。

「我が呼び声に応え、来たれ―――」

自身に魔力などない。
故に風以外の『魔法』などまず使わないし使えない。

風はただただ。その頂を使役するに相応しい契約を交わした先で得たものだから。

「…風の王ッ!!」

その王たる力によって自らは行使する。


―風神症最終奥義・霊王降臨


背後に浮かぶ光のシルエットが奔流となり、魔方陣へ吸い込まれるように流れ一息に加速するエネルギーと化す。
本来であればそれを一手とし、相手に向けて放つ技となるが。
そこへ、風と翼を用いれば一息に追いつく。


そのまま、そのエネルギーを取り込むと刀身へと宿す。
並の身ではその負荷に握る体が耐え切れない、今の丈夫な自分だからこそ使用可能な一撃を。


「…鏡神映身流、弐代目終焉秘奥義」

その勢いを殺さぬままに、頂に居る彼へ一直線に加速する矢となり駆ける。



        『天   覇   風   龍   斬』


-Side by 夏山千歳 TURN4

血が落ちる。
落下した体液は蔓草に染み込み、吸収され、消える。
咽返るほどの金木犀が薫る。
落日を見届け、闇がしのび、背月の陣を形成する。

天狼の喊声は鼓膜だけでなく肌をも揺さぶる。
追撃するように風が舞い起こり、遠く離れた青年の髪を、強くはためかせた。

そうしている間にも、ゆっくりと蔓草の尖塔が軋みだす。
青年の立つ比較的、水平な足場より後ろに、蔓草が集合し幾つかの束を作り出す。
芯となる巨木のような尖塔に比べれば、その束は枝とも呼べぬほど、細く頼りない。
しかし、それは比べただけの話。
鍛え上げられた成人男性の腕と変わらぬ太さは、立ち向かうものにとって脅威となる。
 
ビリビリと震える空気が静まり、その発信源は同じ高みまで飛翔した。
「テメェ自身の魂掛けて」
機械人形の呼応する電流の波紋は、天狼の全身を焼き。
死霊の肉を食いちぎらんとする歯は、天狼の全身を裂き。
しかし、その背に傷は無く、その魂に穢れは無い。
美しい刀身を向けられる。
「俺より強ぇ奴に、会いに来ただけだ」

立ちはだかる。
八岐の神話のように、首を増やした蔓草の龍を従えて。
「ならば私があなたの壁になりましょう」
くるりと回転させてから、長斧を構える。
「私を怪物と呼ばず、強敵足りえると認めていただいた、あなたに相応しき壁になりましょう」
八岐の蔓草が、天狼に狙いを定める。

「俺はテメェに、全力で『勝つ』」
「さぁ、来るが宜しい!!」

二人の声が重なる。
真正面に巨大な魔法陣が現れる、と同時に八岐の蔓草が天狼を貫かんと、鋭い矛となり走り出す。
一秒を争う局面においてアクション数の差は大きい。
三本の蔓草が魔法陣に突き刺さる、が、焼き払われるように消失した。
続いて二本が回り込もうとするが風の余波に切り裂かれる。

魔法陣が意味を携え、意味が具現化する。
純粋な力が急流となり当主に差し迫る。
一本、また魔法陣を欠けることさえ出来ずに散る。

立ち向かう純粋な力を、後続した天狼が取り込む。
その刀身は輝く朝日。
光が目を焼く。
だが当主にはもうヒトツのまなこがある。

羽虫を介して『識』る。

ならば此方は銀星が駆ける。

また蔓草が一本、表面から千切られる。
その内側に潜んでいた煌きが露出する。
名刀、氷雪の刃。
銀星は勢いを殺す事無く、真っ直ぐに駆ける。
しかしその奇襲は失敗する。
いまだ残る力に弾けて、目指すべき道行きを失う。

そもさん。
ただの一撃でこの厚みを突破できると思ったのか、否。
役を作るために手を重ね続けた。
風を穿つための最善手を、探し続けた。

最後の蔓草が、氷雪の刃の軌道をなぞる。
エンド・ラ・フォルツァ。
蔓草が剥離し内から覗く、二本目の銀星。
風を穿つが、剣の行方に目をくれる間など無い。
 
肉薄する。
質量で相手を押しつぶせる当主が得物を持った理由はヒトツしかない。

魂には、魂を。

強く、長斧を握る。
常日頃、蔓草の枷で動きを制限されているが、今、ここに当主を縛るものは何も無い。
「ン、ぐ・・・!」
当主は渾身の一撃を、天狼へ振るう。
奔流を受ける、骨の柄にひびが入る。
血が、にじむ。
にじんだ端から、ひびが『癒』える。
龍骨が、骸が、『癒』やされる。
しかし、ひびは、広がり。

「―――、セイ、リオス・・・ッ!!」

天狼の刀が、当主の腹を、貫いた。



嗚呼、この一時。
この胸に巣食う魔物が満たされるのが、解る。


-a result of Battle

セイリオス
HP:6-9=0

夏山千歳
HP:13-6=7

勝者:夏山千歳


-side by セイリオス END TURN

八岐の蔓草。
一呼吸の間に2・3と襲いくる、手数と速度を纏う技と神剣の勢いで強引に退け、押し進む。

だがそれもまた、無傷では済まない。
あくまで留まらぬだけ、あくまで突破するだけ。

剣先を抜け体に触れれば、それは身を削り身を抉り確かな傷を残していく。

その一手の中で表れたるは、この地で誇る名刀が一振り。
氷雪の刃が軌跡をもだが弾く。弾かねばならない。


何が為に放つのか。
何を以って到達と成すのか。
進む意を問い、放つが解を得る為の前進ならば留まる理由は今に在らず。

「うぉぉおおおおおおおッ!」

ついに至近に届いた相手の。
最後は振るわれた、その長斧と鍔ぜり合う。



天より振るい、覇を成して、風の導きを辿り、龍神の加護を以って、斬る。


強くとも。
直るとも。

関係ない。

「―――、セイ、リオス・・・ッ!!」

「千歳ぇぇえええ―ッ!」

その刃は確かに。
解を得て相手の身を、貫いた。



羽が、舞い始めている。

「…ったく、『最大』半刻なんて、よく言ったもんだぜ」

この状態は化身して永劫続くものではない。
以って半刻。それ以上は体が負荷に耐え切れない為に、自動的に解かれるようになっている。

解かれればその身は一切の力を一時的に失い、数日の睡眠状態へと強制移行する。

故にそれで仕留め損なえば、戦の中であっては死を意味する為に自ずと切札となった。


背に広がる金色の翼が、その刻を知らせんと舞い散る羽を次第に増やし消えんとす。


だからこそ。


「最後―――、その壁を、喰らうぜ」


刀を握る右手から離れた、左手。
その拳が握られれば、自らに残る闘気があらん限りに集中する。

「テメェは、強かった。勝負は、もう後がねぇ俺の…負けだ」

息が荒い。命の拳とでも言うべきエネルギーを込めて。
左拳が引かれる。

「だからこいつぁ……何時か超えにくる為の、前借だ」



―――鏡神映身流・奥義


引いた拳を、足元にある八岐の蔓草のその中心へ、振るう。


「天、狼ォ拳ぇぇぇえええええんッ!!」


描くは顎を大きく開いた狼の頭身。
喰らいつくすが如く、八岐の蔓草をその根の元へ飲み込まんと駆けた。


-side by 夏山千歳 END TURN

この勝負、懐に入られれば。
高い確立で、こちらの敗する瞬間になると知っていた。

それ覆す手法が、ただヒトツだけある。
天狼自身のエネルギー切れだ。

消耗戦を仕掛けたのは、近距離戦において圧倒的な不利を補うためもあった。
手を重ね、策を成し、何を利用しても、何を犠牲にしても、この身を護らねばならなかった。

だから懐に入られた結果は、道理でしかない。

「か、はッ・・・・」
鼻腔を金木犀の薫りが突き抜ける。
口内を満たすのは蜜より甘い誘惑。
それらは全てが春の夜の幻。
当主は大量の血を吐き出す。
腹を貫通したままの刃に手を添えて。

「最後―――、その壁を、喰らうぜ」

黄金色の羽根が舞う。
立ち上る薫りにつられて、その光景は秋の夜の夢の如し。
天狼は刃から手を離し、残り全ての炎をかけて。
その拳を、支柱に叩きつけた。

拳がめり込み衝撃を受けた先、核となった爪のある場所から、蔓草が塵となって消える。
足場であったものが根から先端へ向けて崩落する。

その最中、当主はいよいよ膝をつき、刃を撫でた。
握力を失った手ではビクともしない。
左腕から蔓草が生え出て絡みつき。
そうしてはならないと知っていながら、その刃を、一息に引き抜く。

月夜に血のアーチは描かれない。
白い影が当主を包み込んだ。
引き抜かれると同時に、肉が再生する、血管が繋がれる、内臓が修復される。

私は、過去に生きた。


自らの知らぬ過去、自らが築いた過去。
その全てに囚われて生きてきた。
夏山に生まれたからだけではない、それが当主の、青年の、どうしようも無い程の根底だった。

崩落する、なにもかもが塵となって消える。
当主の口元を、腹を、全身を汚していた血痕が、その存在を失う。
致死の重傷を『癒』した代償。
身の内に残る血液も幾らか捧げられた。
が、それでも即死には至らぬようにとの、霊獣、白妙姫の気遣いがそこにあった。
 
あなたは、未来に生きる。


何処までも駆け抜ける、恐れを知らず、痛みを知って。
その生き方は鮮烈過ぎて眩しい。
敬意と尊敬をこめて、蒼天は続く、という名を与えた。


でも私も、自分の生き方が嫌いじゃないんだ。
だから、これからも、そうやって生き続ける。


意識もおぼろになり、崩落するまま落下する。
天狼の行方が気になりながらも、最早、その手には何も無い。
唇が名を紡ぐ。
しかし地面に激突する事は無く。

一陣の風が、その身を優しく受け止めた。


-side by セイリオス END TURN2

狼の顎が、蔓草を喰らい。

崩落を始めた中で、体は自由落下に任せて落ちていく。



今はこれが満足だ、と笑みが語る。

勝ちたくて駆け抜ける。
負けたくなくて強くなる。

だけれど。

今の自分の惜しまずして出せたなら、己の十二分はそこに示せたならば。
今は、満足だと心が知る。

また一歩、前に進む為に生きる。
その糧がここにあった。


――お前も、そうだろう?

音は聞こえず、口だけが動く。


自らの生き方を貫き通す、その“前進”は変わらないのだから。



最早、背に生えた羽は半分も失った。

羽ばたかず風に流されるように、一枚、一枚と金色の羽は宙空へ消えていく。
 
声が、聞こえた。

微かに、だがはっきりと。


“紡いで亘り、描いて流れ、啼いて雄々しく、解けて結ぶ”

その身を今一度起こさんと風が吹き荒れる。


背の羽は最早根元に近く。
だがまだ、消えるには遠い。


――風魔症・超音速機動


地に落ちる寸前の彼の姿に追いついて。
凪ぐ風が受け止め、その身を抱えて地に降り立つ。


「…ったく、よ。敗者が勝者の面倒見るなんざ、聞いた事ねぇ…ぜ」

ゆらり、と体が後ろに傾ぐ。

羽は今、最後の1枚が抜けるところ。

『―――ワリィ。あと、頼むわ』

誰が何処で見ていたかも分からない。
だが確かに感じた存在に、風に乗せた言の葉は助けを請いて。



羽が消え、残る背中には代わりに大きな術式の陣と一匹の狼のシルエットが浮かび上がる。

その一瞬だけ背を晒し。
そのまま後ろから、今度こそは地へと崩れ落ちた。


-side by アカリ・ウェスペル END TURN

先刻、鬼燈嬢を招き入れた結界を解いて、
静かに立ち上がる。

己の拍手の音が乾いて聴こえた。
その頭上一面に広がる真っ青な空、抜けていく風。


業、か

或いは相、か


どちらにせよ、今この目の前に在るのはただ
二つの形のみ。

「ああ、まったく、なあ」

後を頼むと言われたからには、どうにかせねばと思うのがこの掌の業。
苦笑しながら其々に横たわる二人に近付き、応急の白魔法は

「月の雫――」

そして、魔法陣を切る。

無言のまま遣いを呼び、そこから直行で二人を運び入れた先は
お馴染み、エージュ病院だったとか――



-After the END TURN side by アカリ・ウェスペル&夏山千歳&セイリオス

さて、それから。

片や決死の切り札による反動と全身にわたる火傷、裂傷、その他諸々。
片や傷らしい傷は癒えているものの、致死に近い重傷のショックと極度の失血。
急な重体患者二名に、タックカイオの国立病院では、てんやわんやの騒ぎがあった。

割とすぐに目を覚ました二人に、医師は怒髪天を衝いたり。
かと思えば片方の青年を見て、まさかコイツ近頃流れてる病院の根も葉もない噂の発信源じゃないのかって顔をされ、そっと顔をそらしたり。
彼の愛玩遣い魔の黒兎とともに二人を運び入れた闇医師は、どこか楽しげにニヤニヤと見つめていたり。
気がつけば病室でムイムイがむーいむいしていたり。 
なんて慌しい一時があったものの。

無事、要入院の太鼓判を押された二人は、しっかりと持ち込んでいた礼服に着替えていた。
「君らは安静って言葉を知らんのか?」
「フィナーレですしねぇ」
「だな」
呆れたような闇医師の視線に、こともなげに返す。
二人を蝕むものがあるとすれば、それは傷ではない。
彼らの身体に宿る、彼らだけの体質だろう。

ロングタキシードの上にコートを羽織った青年は、しかし歩く事もままならぬ様子である。
ベッドに腰掛けたまま、その思案顔は。
「・・・病院で大型動物を呼ぶのはやめといた方が良いぞ?」
「ですよねー」
そっと釘をさされながら、諦めていなかった。

「きっと、どなたかが迎えにいらしてくださいますよ、すごろく主とかすごろく主とかすごろく主とか!」
「他力本願だなぁ」
「勝った癖に先に気ぃ失うしなぁ」
「て、適材適所ですもの!」
三人集まればなんとやら、とは言うものの。
ダンスホールとは一味も二味も三味も違った彼らのやり取りは、看護婦さんからのお叱りを受け終了したのは言うまでもない。

何だかんだで病院を抜け出し、こっそりとエージュ城に帰還した彼ら。
人数少ない受付を、なんとはなしに眺めながら。
「今度は、お酒を用意致しましょうね」
虎に横座りをした青年が、ぽつりと呟く。


-After the END TURN side by 夏山千歳

「とても怖かった事、楽しかった事、嬉しかった事、ゆっくりお話ししましょうね」
青白い顔のまま、インカムを装着する。
剥がれた爪は『癒』され、翡翠のマニキュアは全て落とされていた。

「あなたの最初の問い、いまだに魅力的だと思っておりますよ。
でも、やっぱり違いましたね、当たりました」
意味深な笑みを浮かべるも、すぐに柔かく霧散し。
「今の縁を結べて良うございました。
本当に、ありがとうございます」
手を差し伸べる。
男にしては綺麗な、氷のように冷たく、大きな手。
「再戦を、楽しみにしておりますよ、セイリオス」

と、暫しの間をあけて。

「・・・殿」
照れたように、子供のように、笑い返した。


-After the END TURN side by セイリオス

一度目をつけられてから、その看護婦の目を盗んで抜け出すのはそれはそれは、大変だったとか。

「……下手な大将とか龍よか、こっちのが怖ぇのは何でなんだろうなぁ」

受付あたりまでの道すがらひとりごちる。
お叱りを受けた時の剣幕を思い出せば、龍の巣に瀕死で放り込まれる方がまだマシかもしれない。



「酒か。――いいね。駄弁るのは最高の酒の肴だ。」

視界は記憶から今の場へ。
彼からの提案に、目は受付を同じように眺めながら笑み頷く。


そうして、礼と共に差し出された手を見つめて。

「…魅力的、か。俺ァ何時か、それ以上に肩ぁ並べて戦場駆けてもみてぇけどな」

自分が倒せると奢るつもりもない。
だが、命の取り合い以上に。

それだけ強さを知った相手だからこその、また別の願いもある。
ただ同じ戦場に在るだけでなく。文字通りの肩を並べて。

「こっちこそ、ありがとうよ。
 …負けっ放しは好きじゃねぇ、きっとリベンジさせてもらう」

差し伸べられた手を取り握手をする。

「楽しかったぜ、千歳」

その後に続く敬称はなく。ニッと屈託のない、何時もの笑みを浮かべた。
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